少し前に調整対象固定資産に関する「転用」問題に関するエントリーを書きましたが、
今回は転売目的で取得した物件の購入時の課税仕入の用途区分について検討してみたいと思います。
どのような目的で物件を購入するかに応じて、購入時の物件(建物部分)の課税仕入に係る用途区分を判断することになるのですが、実務上は判断に迷うケースも多く、目的と実態に乖離が生じているケースも多くあります。
このような目的と実態(家賃収入の種別など)が乖離している場合には税務調査で否認されることも多くあるため、よくよく慎重に検討しておく必要があります。
物件購入時の課税仕入について
不動産屋さんが物件を購入した際には必ず課税仕入の用途区分の判定が必要になってきます。
課税売上割合が95%を切っているとか、課税売上が5億円を超えているため、課税仕入については用途区分の判定を行う必要がほとんどです。
新築の物件を購入してきたのであれば、その物件の購入時点での所有目的に応じて用途区分の判定を行えばいいのですが、
入居者が入っている中古物件を購入してきたときは特に注意が必要です。
というのも、テナントや事務所賃貸の物件であれば問題ないのですが、住宅の賃貸が混じっていると、課税仕入の用途区分の判定が途端に難しくなります。
特に転売目的でこういった物件を購入した場合に、どのように課税仕入の用途区分を判定したらいいかと、よく質問を受けます。
用途区分の判定を行う時期について
用途区分は課税仕入等を行った日において行う。当該用途区分が明らかでない場合に、課税期間の末日までに当該区分が明らかにされた場合には、その明らかにされた区分を適用することができる。また、合理的であると考えられる用途区分の判定を行った後で、実際には別の用途区分に使用された部分があったとしても、さかのぼって用途区分の判定をやり直して仕入控除税額の計算を修正する必要はない。
転売目的での物件の購入について
転売目的で物件を購入した場合の用途区分の判定を行う際には、物件購入時の所有目的によって判定を行うことになります。
しかし、住宅として賃貸している入居者が付いている中古物件の場合には家賃収入が毎月入ってくることから、単に転売目的だからということで、課税仕入の用途区分を「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入(課税売上対応)」とすることはできません。
家賃収入は物件購入の主目的ではないとはいえ、物件を売却するまでの間は家賃収入を得続け、転売する際には空家がない方が物件の価値も高くなるので、積極的に賃貸の募集も行うことになります。このような状況からは客観的にみた場合、その物件を「転売目的」で取得したのかどうかの判断は非常にしづらいといえるからです。
つまり、物件売却までは家賃収入を得て、結果的に物件が売却されたに過ぎないとみられてしまうわけですね。
となると、購入した物件から得られる家賃収入の内容に応じて用途区分の判断をすることになるわけです。
物件の利用に応じた用途区分の判定(原則的取り扱い)
物件の賃貸契約 | 課税仕入に係る用途区分 |
テナント、事務所賃貸のみ | 課税資産の譲渡等のみに要する課税仕入(課税売上対応) |
住宅の賃貸のみ | その他の資産の譲渡等にのみ要する課税仕入(非課税売上対応) |
テナント、事務所、住宅の賃貸 | 共通対応 |
とはいえ、「転売目的」で購入しているのであれば、きちんと「転売目的」で購入した事実の裏付けとなるような証票を残すことにより下記のように取り扱うことも可能であるといえます。
「転売目的」で購入した物件に係る用途区分の判定
購入目的 | 物件の賃貸契約 | 課税仕入に係る用途区分 |
転売目的 | テナント、事務所賃貸のみ | 課税資産の譲渡等のみに要する課税仕入(課税売上対応) |
住宅の賃貸のみ | 共通対応 |
テナント、事務所、住宅の賃貸 | 共通対応 |
しかし、口だけで「転売目的」であるというのでは、何の説得力もないので、実際にきちんと物件の販売活動を行ったり、広告を出したりすることにより実態を伴わせることが必要であると思います。
「転売目的」であることを裏付ける方法
- 物件の購入時に不動産の媒介契約を第三者と締結しておく
- 物件の販売広告をレインズに掲載する
- B/Sの販売用不動産(棚卸資産)に表示する等
(国税不服審判所の判例)
住宅として賃貸中の建物を譲渡目的で取得した場合には、仕入税額控除における個別対応方式では「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に区分されると判断した事例
請求人は、本件各信託不動産(土地及び建物)に係る賃貸収入(住宅の貸付けに伴う賃貸収入)は、当該各不動産の取得に伴い付随的に生じたものにすぎず、当該各不動産の取得が当該各不動産の譲渡を目的とするものであることを妨げるものではないから、当該取得に係る課税仕入れは、消費税法第30条第2項第1号(個別対応方式)の適用に当たり、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分されるべき旨主張する。
しかしながら、請求人は、本件各信託不動産を、譲渡する目的だけでなく、その賃貸収入を得る目的を併せ持って取得したものであり、また、本件課税期間において、本件各信託不動産を取得した日から課税資産の譲渡等に該当しない当該各不動産に係る賃貸収入(住宅の貸付け)が生じている以上、本件各信託不動産に係る課税仕入れにつき、個別対応方式において、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分することはできず、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に区分するのが相当であるから、請求人の主張には理由がない。
平成17年11月10日裁決
http://www.kfs.go.jp/service/JP/70/20/index.html
地上げ案件の物件購入について
地上げ案件の物件購入(入居者を空にしてから他社に転売するケース)などの場合には、入居者を退去させるまでの間に期せずして家賃収入を得てしまうことがありますが、このような場合の用途区分の判定を上記と同様に行うことには若干の抵抗があります。つまり、地上げ案件である実態が明らかなものについては、下記のように判定する余地があると個人的には考えます。しかし、より物件購入の動機や購入目的の実態を明らかにする必要があるでしょう。
また、地上げ後更地にして土地のみ転売する目的である場合には、そもそも「その他の資産の譲渡等のみに対応する課税仕入(非課税売上対応)」になることから注意が必要です。
購入目的 | 物件の賃貸契約 | 課税仕入に係る用途区分 |
転売目的(地上げ案件) | テナント、事務所賃貸のみ | 課税資産の譲渡等のみに要する課税仕入 (課税売上対応) |
住宅の賃貸のみ |
テナント、事務所、住宅の賃貸 |
「地上げ案件」であることを裏付ける方法
- 物件の購入時に不動産の媒介契約(売買予約契約)等を第三者と締結しておく
- 入居者の募集、契約更新を行わない
- 入居者に退去勧奨を行う
- B/Sの販売用不動産(棚卸資産)に表示する
- 減価償却を行わない等
ただし、退去勧奨がうまくいかず、長期に渡って住人から家賃が入金されるような場合には、用途区分の判定については「共通対応」とすべきであると税務調査で否認されてしまう可能性も想定されることから、ある程度短期間で退去させることができる場合に限って適用すべきだと考えます。